鳩子さん。

2003年9月2日
って誰?

 

ナチュラルで訊いてしまう駄目人間滝野ですコンバンハ。

拾った鳩には「くるぽ」というあだ名がつきました。
愛着ついたらまずいって分かってんのに、いつの間に。

 

 

さて。

以下、「だ・である調」のクソウゼェ文章が続きます。
不快感を覚えた方は回れ右、もしくは左斜め45度の角度で
後方へと跳躍し、速やかに退避されたしなのです。

 

 

 

くるぽ氏を病院へと連れて行くのは、容易ではなかった。

まず、我が家には車がない。そんな金があれば旅行に
行こう、というのが家族一同の共通した意見だからである。

海外旅行は大好きだが、こういう時ばかりは車の無い
我が家が恨めしく思える。もっとも、こういう時以外は
全く必要も使い道もないのだが……

仕方が無いのでバス・電車を乗り継ぎ、最寄りの駅から
徒歩で病院を目指すことにした。

他の乗客様のご迷惑にならないよう、くるぽ氏を
厳重に鳥篭へと封じた後に大きな紙袋の中に入れ、
その上から新聞紙で目隠しをした状態で持ち運ぶ。
鳥篭はああ見えて重く、しかもかさばる物であり、
オマケに中には怪我人(人?)が入っているのだ。

 

苦労の末辿り着いた病院は、意外にもクーラーが
よく効いていて快適であった。動物を扱う場所では、
空調を絶対使わないか、あるいは一日中徹底して
管理しておかないといけない。
この病院は後者なのだろう。俺は勝手に納得した。

 

受付を済ませ、診察室に入ると、そこに居たのは
白衣に茶髪のお姉さん──お姉さんである。
間違ってもおばさんの歳ではない、お姉さんだった。

彼女はくるぽ氏を一瞥すると、最初に尋ねた。

「この鳩は野生のものですか?」
「ええ、家の近くでぽろっと落ちてたもので」

答えると頷いて、何やら手元の書類にチェックを入れる。

「当医院では、野生動物の診療は無料で行っています。
 また、その後のケアや野生復帰までを引き受けさせて
 いただいております」

「では、この子は当医院で預からせていただきますね」

「何かあった際、ご連絡はいたしますか?」

くるぽ氏は右足の指を怪我していたのだが、どうやら
その指だけではなく脚の骨をやられていたという。
飛べなくて餌も摂れず、飢えて衰弱したらしかった。

ハキハキと言葉を連ねられ、だが俺は彼女の言葉を
嚥下することなく口元を見ていた。

訊きたかった。
「あなた、神ですか?」
と。

 

獣医師は動物を救えるけれども、神様ではない。

無料で預かって手当てをする?

その間の餌代は。世話をする者の人件費は。
治療に薬は必要ではないのか? その薬代は?

 

そんなことで病院は成り立たない。世知辛い話だが。

 

神ですか?という問いは、皮肉にだってなるのだ。

だが、俺の口は別の言葉を吐いた。

 

「お願いします」
と、そう言って、獣医の手に篭を押し付けた。

 

くるぽ氏が手元を離れただけで、何故かほっとした。

 

 

動物がそんなに好きなら獣医になればいいのに、と
言われたことがある。

でも、駄目だ。
俺じゃ駄目だ。

俺は、イキモノがただのモノに変わるという現象が
怖くて仕方が無い。だから医者にはなれない。

よく病気や怪我の生き物(主に鳥類)を拾ってきて
しまうのだけれども、それは次の日に同じ場所を通り、
冷たくなった「それ」を見るのが怖いからだ。

俺が優しいからでは、断じてない。

加えて自宅に持ち帰れば、たとえ助からなくても自分で
速やかに埋めてしまうことができる。
アスファルトの上に転がって無残に朽ちていくのを
見せられるほど、気分の悪いことはないだろう。

 

本当は、その「速やかに埋めてしまう」という
ステップすらすっ飛ばしたいのである。

なんて言うか、もう、死んだ瞬間に蒸発してくれ。
と、聞き方によっては非常に冷たいことを考えるのだ。

 

 

だから病院が「後のことは全てお任せ下さい」と
言ってきた時、躊躇いもなくくるぽ氏を手渡した。

俺は本当は、彼がどうなろうと構わない。
ただ目の前で死なれるのだけが嫌で嫌で。

だからその後の全部を見ないで済むというのは、
文字通り神の救いのようにも思えたのである。

 

 

そういう冷たい自分は嫌いだ。

世知辛い世の中だからといって、あの病院はちゃんと
診察をしてくれるんだろうかと考えてしまう自分も嫌いだ。

猫に襲われたり飢えたりする心配がなくなって、
安心するトコロですらあるかも知れないのに、

 

そうだな、世知辛いのは俺の方だ。

あそこは動物を助ける場所なんだから、と信じておこう。

 

 

別段寄り道もせずに帰った。

排気ガスのたちこめる場所を、平気で通ることが出来る。
電車に乗るのに特別料金を払うこともなければ、
わざわざ端まで行って弱冷車に乗る必要もない。
日差しの角度を確かめて、無理な角度に篭を支えて
歩くこともない。

数百グラムのナカミがなくなっただけで、
左手の鳥篭は急に軽くなっていた。

 

 

病院は「何かあったら連絡します」と言ってくれたので、
じゃあそれを楽しみに待とうと思う。

それがどんな「何か」の報せでも。

 

 

そして。

俺はこんな口調で語ったりして、まるで青臭い少年漫画の
敵役か何かのよーだなとちと思った。

(何 と語尾につけて締めくくりたい。

 

 

 

 

関係のない追記:
 うわーん! 望ちゃんだって言ったのに!
 望ちゃんだって言ったのに!
 紫峰たんの馬鹿ーッ! とか言ってみる。

 短編集版「望ちゃん」を期待していたとかは内緒。
 読み方違うしな。内緒内緒。

 

関係のない追記2:
 そして、くるぽ氏を病院に連れて行くために
 今日は学校サボったなんて腹切ることになっても…

 うげほうげほ!

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